この記事は、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下FVC)が日ごろお世話になっている方々と対談し、ベンチャーの育成や新事業の開発など「いかにして事業を成功に導くか」をテーマに、対談相手の皆様の戦略等をはじめ、FVCの事業戦略なども併せてお話させていただくものです。
第1回のお相手は、大阪におけるベンチャーや第二創業などに投資することを目的として組成された「だいしん創業支援ファンド」の大阪信用金庫様。
FVCによるファンド組成の提案段階から深くかかわっていただき、現在もファンドの運営に陣頭指揮をご発揮いただいている松山常務理事とFVC松本が対談させていただきました。

初のファンド組成。すべては地域の中小企業のために。

松本
早速ですが、だいしん創業支援ファンド(以下「だいしんファンド」)を作った目的・背景についてお話ください。

松山
「預金を地域の方からお預かりし、地域の方に融資する」という信用金庫の基本通りの営業活動を続けてきた中で、松本社長から「ファンドというスタイルで中小企業の支援をしてはどうか」という提案を平成26年5月ごろにいただき、地域産業振興部の当時の部長と私とで、前向きに検討を重ねました。
その提案では融資以外でも中小企業を支援できるということで、関係部署の役員と相談したのですが、それまでファンド組成の経験がなかったためすぐにはゴーサインが出ませんでした。
そんな中、当金庫の樋野理事長から「投資のリスクはあるだろうし厳しいことは想像がつくが、地域貢献・中小企業の育成のためやってみなさい」との言葉を得て、翌6月の常務会で承認を受けることができました。
さらに翌7月の理事会で、非常勤役員の皆様にも「中小企業の創業支援について貢献し、地域の役に立ちたい」という思いを説明し、承認を得ました。その年の9月、ファンド立ち上げが実現したのです。

松本
その時、私(松本)が大阪信用金庫様を担当させていただきましたが、FVCについてどのような印象を持ちましたか?

松山
正直な話FVCについてはまったく知りませんでした。
しかし担当部長から、当時堺市が進めていたファンドでもFVCが管理運用を担当していると聞き、調べたところ、FVCは中小企業の育成や地域の活性化に地元金融機関と共に積極的に取り組んでおり、その実績がある、社会に必要な会社であり存在価値がある、と分かりました。
そこで、大阪信用金庫もファンドの実績がなかったことからFVCに管理運用を担当していただく方向で提案を聞かせてもらおう、一緒に手をとって頑張っていこうということに。

松本
不安はありましたか?

松山
不安というより、ファンドのスキームは理解できたのですが、創業支援、起業してすぐの方、創業5年までの企業を対象にしたファンドなので、どのような「目利き」と「投資実行」をするべきかが重要であると考えました。
「目利き」については、FVCと日本政策金融公庫と我々の3社が情報を収集し、経営者の人となりも判断して「社会にとって必要な企業かどうか」ということを判断していきます。それさえ判断できれば、後は頑張っている企業を支援していこうということになるわけです。
大阪信用金庫は融資した中小企業が倒産することは少なく、「目利き」は非常によくできていると思います。この「目利き」に基づいて、「社会に必要な企業」に投資することを重視しています。

多くの機関と連携し、ファンドを「生きた金」に。

松本
だいしん創業支援ファンドの規模(3億円)については、金庫内で何か意見はありましたか。

松山
ありました。大阪信用金庫は2016年9月末には資金量2兆4千億円になるのですが、当時おおよそ2兆円程度の資金の中で、ファンドに投入するための仕組みがまだ分からないという不安はありました。
しかし、樋野理事長から「総額3億円のうちどれだけが生きた金になるかは分からないが、この資金による中小企業の成長を考えれば、それは大阪信用金庫にとって中小企業育成のコストだという考えができるだろう」という話がありました。
投資した3億円がそのまま返ってくるという想定はありません。現在だいしんファンドからの投資額は2億円余り。運用期間はまだ2年ですが、破綻は一社もありません。
創業1〜2年で倒産する中小企業が多い中、だいしんファンドから投資を受けた企業が順調に経営しているということは、生きた金を使ってもらっているということだと思っています。

松本
以前より日本政策金融公庫と連携していたと聞いていますが、今回のファンドによって双方の関係が変わったというようなことはありますか?

松山
日本政策金融公庫とは以前から中小企業支援という部分で協力しあっています。
日本政策金融公庫の大阪支店だけで年間数千社が創業融資を申し込んでおり、数多くの経営者やその会社の将来性について公庫独自の正確な目利き力で判断するノウハウをお持ちであること、そして情報力の多さに感心しつつ勉強させていただいています。

松本
このファンドができる前までは、公庫との関係のなかで、突っ込んだ話はなかなかできなかったのでしょうか?

松山
そうですね。これまでも政府系金融機関との協調融資や個別対応での協調支援などはありましたが、今回は、ファンドを作るというはっきりとしたスキームの中で、公庫とFVCとだいしんがスクラムを組んで中小企業を育成していこうということで、情報の深堀りができるようになりました。

松本
ファンド設立にあたって、役員会や常務会でネガティブな意見はありましたか?

松山
2年前の当時も役員会や常務会への業績報告があり、他の同類ファンドの成績等の情報から今回のファンド設立は大きな損失が出るだろうという意見が出ました。つまり多くの役員が「ダメ」と。
しかし、私には「融資の基本5原則」があり、それに沿って行動すればファンドも融資も変わりはないと考えていました。
そして我々信用金庫としても、ファンドを「任せるのではなく加わる」つまり「携わる」という考え方を持てば違ってくるのではないかと思いました。

松本
「融資の基本5原則」とは、どのようなものなのでしょうか。

松山
安全性、収益性、公共性、成長性、流動性。融資や投資をする際は、この5原則に沿って判断しています。

ファンド組成後の着実な歩み、そしてこれから。

松本
ファンド設立からのこの2年間で気付いた点などありますか?

松山
ファンドからの投資を希望する経営者は事業の拡大や進展を急ぐ方が多いのでは、というイメージがあったのですが、実際はとても慎重で堅実な方が多く、自ら立ち上げた会社を非常に大事にしていて、着実に歩んでいこうという経営方針が見えたのが意外でした。
業績不振の時に一発逆転を狙うのではなく、足元を固めながら堅実に経営されているという印象を、現在の投資先企業に対して持っています。
だいしんファンドは「元々上場を目指さない企業にも投資する」という特徴を持ちます。最初から上場を目指したり短期で業績を拡大させたりすることだけが目的ではないので、この趣旨に合う会社に投資したいと考えています。

松本
だいしんファンド設立後に大阪府とも連携されましたね。それも、このファンドの成果と思われますか?

松山
以前から大阪府や大阪市をはじめとする行政関連とのつながりは当然あったのですが、今回のファンド立ち上げで関係がより深まりました。
大阪信用金庫のPRにもなりましたし、知名度が上がりました。金融庁や財務局など我々の監察官庁から期待の言葉もよくいただき、色々な会合でも、この話がよく出ます。実績も上がっています。

松本
それは、投資実績を評価されているのでしょうか?

松山
投資実績はもちろん、創業支援ファンドの設立に大阪信用金庫がまず取り組んだことに対する評価が高いと思います。全国には265の信用金庫がありますが、地方創生、中小企業の育成、創業支援は信用金庫の本来の使命。すべての信用金庫が、融資以外の創業ファンドを設立し、中小企業を支えていくという取り組みがこれからますます必要になるのではないでしょうか。

松本
金融庁や財務局の方からは、どういうことを言われるようになりましたか。

松山
以前の金融検査は資産査定がその主な内容だったのですが、最近は特に、地域に対する支援、地方創生への取り組みが信用金庫の評価につながっています。
その傾向は次第に強くなっています。監督官庁に限らず、この2年間多くのマスコミにだいしんファンドを取り上げていただいたことからも、世間の注目が集まっていると感じています。

松本
このファンドができたことで、行内で何か変わった点はありますか?

松山
ファンドを利用した中小企業などへの支援・取り組みは、各支店の業績評価の点数にもなっており、職員の姿勢も変わりつつあると感じます。
最近は我々だけではなく、地銀や都銀も融資の判断には非常に苦労しているとよく耳にします。従来のように財務分析、いわゆる点数だけで融資することも多いため、どのように判断するのかという目利き融資の観点から信用金庫に注目しているという感じがします。
信用金庫は「リレーションシップバンキング」と言われています。融資を依頼するお客さんをよく理解し、何を求めているのか?どうすれば事業が発展するのか?を考えて、資金面の支援をしていくということです。

松本
金融庁が金融機関にベンチマークを導入しようとしていますが、こういった流れとも関連があるのでしょうか?

松山
経済産業省や金融庁は昨年から「ローカルベンチマーク」を推進しており、今回ご縁があって「ローカルベンチマーク」の推進について大阪信用金庫の取り組みに興味を持っていただきました。
今年8月に私どもの融資部長と副部長が東京に出向き、経済産業省のローカルベンチマーク推進担当部局に対して、大阪信用金庫の取り組みを説明しました。
ローカルベンチマークは「お客様のことをどこまで理解できているのか」という視点で、必要な項目を入力すれば、全国統一された企業評価が算出されるシステムです。当金庫はこのシステムを今年3月より利用しています。

成功実績を重ね、仕組みを全国265の信金へ。

松本
大阪以外の地域で同様の取り組みをする時に、気を配る点はありますか。

松山
やっぱり地域性というのはありますからね。
大阪には中小企業が33万社あると言われていますが、大阪信用金庫の場合は兵庫県の一部の尼崎市・伊丹市もエリアに含み、大体40万社の中小企業が存在します。独立する方は他地域よりも非常に多いと感じています。
九州地域では、創業ができるような仕組みを考えて積極的に取り組んでいる役所がありますので、やはり自治体と情報交換・収集し、どういう風にお金を入れていったらいいのか?どういう組織を作ったらいいのか?など、地域ならではのことを考えていけばいいと思います。

松本
ありがとうございます。本当に、人が大切ですね。起こすのも人ですし、サポートするのも人なので。大阪はそういうことがよくできていると感じています。

松山
そうですね。毎月の情報交換会も非常に面白く、積極的に出たいと感じます。

松本
ありがとうございます。では、ファンド組成に取り組んだからこそ分かった課題はありますか。

松山
ファンドから投資した会社に対しては、地域産業振興部が主となってフォローやメンテナンスをしているのですが、当金庫営業店の担当者が対象企業をもっと育てるという意気込みでサポートしていってほしいと思います。現段階では、その点がまだ弱いので。

松本
だいしんファンドの投資委員会では投資候補会社の長所と短所、課題が記載された資料を出していますが、その情報を営業店の担当者が共有し、そこをベースに指導されているといったことはありますか。

松山
それはまだないですね。信用金庫と取引のあるお客さんには月一回程度の担当者訪問があるのですが、実際にはなかなか月に一回の訪問ができず、せっかくのリレバンの関係が途絶えてしまうということがあります。このあたりが課題です。

松本
今後、だいしんファンドもしくはFVCにご期待いただくことはないでしょうか?

松山
数多くの創業期の企業を育てていただくことです。
中小企業白書によると、10年前の2006年は中小企業の数は420万社だったのですが、2016年にはそこから140万社も減っています。これは非常に残念なことです。
さらに、先日も新聞に掲載されていましたが、2030年には中小企業の社長の平均年齢は80歳になるそうです。社長の年齢は高齢化し、中小企業の数自体も年々減っている。創業よりも、廃業する数の方が圧倒的に多いということがその原因であると見ています。
全国の信用金庫が創業のハードルを下げさせる。そして様々な創業環境の整備に協力し、真剣に中小企業を誕生させ、育てていくことが必要なのではないでしょうか。
松本社長には是非全国265の信用金庫に創業支援の仕組みを仕掛けていっていただきたい。それぞれの地域で創業される方を支援して、1社でも多くの事業者を増やしていただきたいと考えています。

松本
ありがとうございます。ということは、私もあと200倍頑張ります(笑)

松山
ファンド組成からまだ2年ですが、大阪信用金庫がこの取り組みで成功しているということを全国に発信し、融資とそれ以外でも中小企業を支援できると認識してもらうことが、日本の未来のためにも必要と考えます。こういったことに取り組んでいただけたら。

だいしんが取り組む、様々な企業支援。

松本
ファンド以外の企業支援や、その他の取り組みなどはいかがでしょうか。

松山
それはもう豊富にあります。ディスクロージャーの冊子にも取り組みについて書いています。
大阪府との包括連携協定やビジネスマッチング、大阪商工会議所との連携など、大阪信用金庫の基本方針に則った活動を展開しています。

松本
特徴ある取り組みについてお聞かせください。

松山
補助金の申請をサポートするサービスや、マッチングサービスが好評です。
マッチングサービスはウェブサイト「だいしんなんでもネットワーク」があり、そこに約1500社が登録。他、中小企業への取り組みが大変多く、様々な部署と連携しながら、事業再生などのサービスも行っています。

今回の対談を通して、だいしんファンドが大阪地域における創業支援にとって意義深いものであることを再認識できました。
地方におけるファンドの組成は、IPOを目的にしない企業に対しても適用されることを盛り込むことでより多くの創業希望者にリスクマネーを提供できるものとして全国で採用されるよう、また日本中の信用金庫がリレーションシップバンクとしてさらなる地域支援に加速をつけていただくためにも、我々FVCとして営業努力を続けていこうと感じました。

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