この記事は、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下FVC)が日ごろお世話になっている方々と対談し、ベンチャーの育成や新事業の開発など「いかにして事業を成功に導くか」をテーマに、対談相手の皆様の戦略等をはじめ、FVCの事業戦略なども併せてお話しさせていただくものです。
第2回のお相手は、昨年「こうべしんきん地域再興ファンド」を、さらに今年は「こうべしんきんステップアップファンド」を組成された神戸信用金庫様。
ファンド組成の企画責任者である大前執行役員とFVC松本が対談させていただきました。

立て続けのファンド設立、その真意とは。

松本
2016年7月27日に「こうべしんきんステップアップファンド」を、またその前年にも「こうべしんきん地域再興ファンド」を設立されました。
この短い期間で立て続けのファンド組成は結構珍しいことかと思うのですが、その背景や理由をお聞かせください。

大前
最初の「地域再興ファンド」は、阪神・淡路大震災から20年の節目にあたり、信用金庫として地域貢献したいという思いで設立しました。
このファンドの投資先で、非常に好業績の成功事例となりそうなところが出てきたので、信用金庫内での評価が高まり、西多弘行理事長も早急に新たなファンドを作りたい、信用金庫として何らかの地域貢献を続けていきたいという意向がありました。
そこで設立したのが「こうべしんきんステップアップファンド」です。

松本
神戸信金が主体となるファンドは「地域再興ファンド」が初めてのものだと思うのですが、その際のハードルや課題はどういうところにありましたか?

大前
銀行ならキャピタルがありますが、ほとんどの信用金庫はそういうものを持っていないので、やはり運営管理などのノウハウをお願いする先がネックでしたね。たまたま松本社長に相談したら、快く引き受けていただいたので安心しました。

松本
我々FVCを選んでいただいた理由はどこにあったのでしょうか。

大前
古くから松本社長を知っていて、お人柄とかお考えとかが分かっていたので、安心してお任せできると思いました。

松本
ありがとうございます。他の役員の方々はFVCをご存知なかったかと思いますが、不安はありませんでしたか。

大前
その辺は私の方から十分に、FVCの会社概要や特に最近の地方創生系のファンド組成の実績についてじっくり説明したら、すぐに納得を得られました。
理事長も、松本社長を知っていましたし。

松本
そうなんです。当時、西多理事長が本店営業部長のころにお会いさせていただいて、勉強会を任せていただいたんです。

「公募型」と「推薦型」。二種のファンドの特徴に迫る。

松本
「地域再興ファンド」では投資先を公募するという非常に面白い方法を取られましたが、その背景を教えてください。

大前
初めてのファンド組成なので、投資の世界に対する職員の理解に不安もあり、営業店から推薦を募るというのは難しいかなと思い公募方式にしました。 そして何より、公募によって隠れた将来性のある思いがけない企業、投資先が出てくるかなという期待がありました。 例えば染色体分析のクロモセンターは、鳥取県米子市に本社がある企業なんですが、ここが神戸に拠点を移して投資先になりました。それから投資後の実績で言えば森久エンジニアリング。ここは飛躍的に業務拡大しました。この2つが大きな成功事例となりました。

松本
投資先の成長もさることながら、これまで融資の取引がなかった先と「地域再興ファンド」から投資をしたことがきっかけで取引がスタートした、という事例も成功の一つかと思うのですが。

大前
ファンド組成によって今まで取引するのが難しかったところともお付き合いできるようになったのは非常に大きかったですね。
神戸市などの連携機関や取引先からの推薦、声掛けといった協力も得て、応募も集まりました。

松本
一方、今回の「ステップアップファンド」は公募ではなく営業店からの推薦という形ですが、どうして方法を変えたのですか?

大前
まず、神戸信金の目的として、金融庁が言う「事業性評価に基づいた融資」について何とかFVCさんに職員が勉強させてもらい、職員の目利き力を向上させたいという狙いがありました。
勉強会もしてもらいましたし、営業店ごとに推薦先を挙げるよう、理事長自らの口から支店長会議の中で言っていました。

松本
「地域再興ファンド」の課題のひとつに、ファンドの規模が小さいためにファンド運営にかかるコストが高いという問題がありましたが、信用金庫内で問題になりませんでしたか?

大前
職員の教育という側面について話しましたが、それ以上に地域貢献したいというのが大前提としてあるんです。だから、多少のコストには目をつぶって、とにかくファンドを立ち上げたいというのがあったので、あまり問題にはなりませんでしたね。

松本
「ステップアップファンド」について、その名称に込められた思いについて解説をお願いします。

大前
ステップアップしていく事業計画がある企業に投資していくという意味と、来年度から5年間、信金の純利益の5%を追加出資していくことでファンド自体が成長し、投資先が増えるという“ファンドのステップアップ”という意味で名付けました。

松本
最初に大前さんからその提案をいただいた時に、すごくいい仕組みだなと思いました。
というのも、ファンドの継続性をどう担保していくかというのは実は永遠の課題で、それをクリアするこのアイデアをいただいたのと、実績として今回作らせていただいたのは我々としてもありがたいことでした。
毎年利益の5%を乗せるということで、金額が確定しない決裁を取るという仕組みは難しいところがあったんじゃないですか?

大前
得た利益は地域に還元していくという信用金庫の基本的な考えにのっとったファンドの仕組みなので、理事会でも異議は出ませんでした。
過去にこういった資金の拠出をした取り組みはなかったので、最初は助成金を考えたんですが、助成金は渡したらそれっきりなんですね。企業と長くお付き合いができない。
ところがファンドだと、ファンドの存続期間、あるいはその企業がファンドから卒業する時までずっとお付き合いできるという利点があったんです。
ただ、一発で投資しきってしまった「地域再興ファンド」の投資先とは、もっと距離を縮めないといけないと個人的には思っています。なかには深く関わっている企業もありますが、投資後なかなか親交が図れていない企業もあるのが正直なところです。やはりそこは、ハンズオンに近い形でサポートしていけたらと考えています。

技術力高い隠れた企業を見出し、支えたいという一途な思い。

松本
「ステップアップファンド」で、営業店に求めた推薦企業の条件はありましたか?

大前
幾つか条件はありますが、まずは成長性がある企業を推薦してほしいと求めました。

松本
今回、ファンドの対象先に上場企業はないとこのことですが、そういうところに対しても成長性を見て、リスクマネーとして資金を供給できるのがこのファンドの魅力だと思います。

大前
そうですね。大企業を前提としないというのが一番のポイントだと思います。

松本
神戸の土地柄に合った今回のファンドの位置付けというか、神戸だからこそという特徴的な要素はありますか?

大前
神戸のポートアイランドの医療産業都市構想の中でも、やっぱり医療分野、それからバイオが出てくると思いますね。
また、神戸は重厚長大型産業の二次下請けぐらいが多いんです。だからどうしても、大企業一社のみを見ながら成長していくというパターンが多い。ところが、その大企業のめがねに叶う技術力というのはものすごい価値があるんです。その技術力を、第二創業的に活用していこうと新たな事業展開を模索する下請け企業が出てきてほしいと思います。

松本
そういった企業が、自分たちの強みを使って異なる分野でチャレンジしようという取り組みが増えるには、どうすればいいとお考えでしょうか。

大前
今、端的な分野としては航空機関連ですね。行政の主導でも航空機のクラスター形成するなどしてるので、そういうなかから今後出てくるんじゃないかと思います。例えば私が知っているなかでも従業員わずか10名ぐらいの企業があるんですが、そこは川崎重工業航空機部門の一次下請けなんですね。そういう技術力のある会社には、何とか成長していくお手伝いをしたいと考えています。

松本
事業者の立場としては、今までの事業の延長線だと要求通りのものを作って納めればお金になるということで読みやすかったんですが、新規顧客を見つけ出すとか、違うお客さんの要望に対応するための開発をしなきゃいけないとか、そういった場合に必要な資金をファンドから調達したいというニーズが出てくるのではないかと思いますが。

大前
なかには、大手企業にせっかく認められている技術を持ちながら、自分たちの技術のすごさが分かっていない企業も実際ありました。そういう企業の成長を支えていけたら。

松本
そのためには、取引先とのこれまでの関わり方とは違う関わり方をしていくということですか?

大前
関わり方という点では、この4月から神戸信金の技術顧問に就任した、川崎重工業のOBに、月に2日間、1日2社ずつ企業訪問してもらっているんですが、企業を見る視点が我々と全然違うんです。そういったなかで、いろんな良い技術を持つ企業が現れるかなあと、楽しみにしているんです。

地域貢献や企業支援に向け、多彩な取り組み・サポートを実施。

松本
最後に、神戸信用金庫のPRをお願いします。

大前
先ほども言いましたように、神戸という土地柄、重厚長大型産業と技術提携しているものづくり企業が多く、これらを活性化していきたいという思いで信金のお客さんを集めた「神金ものづくり活性化研究会」を作っています。
これは平成23年に神戸市立工業高等専門学校と産学連携を結んだ時に、研究会の会員と神戸高専と交流を図るという位置付けでこの仕掛けを作りました。会員は現在120社ほどあり、セミナーなどの開催時にも会員に声掛けするなどしています。
あと、事業サポートのためにいろんな外部機関と連携し、神戸信金がプラットホームとなってワンストップでいろんなニーズに応える「S・Aネットワーク(スペシャライズド・エージェンシー・ネットワーク)」の取り組みもしています。これは今、26社と連携していて、相談件数も増えています。
また、もっと大型の仕組みとして、「取引先サポート依頼書」というのがあります。これは、お客さんのニーズを営業店が送ってきて、それを本店がつなぐ先をコーディネートするという仕組み。職員自身が専門知識を深めるのはなかなか難しいと思うので、外部機関をもっと使っていくというのが重要と考えています。 ファンドのことも含めて、これらに金融庁が興味を持ってくれていて、評価していただいています。

松本
トップダウンもやはり重要なんですね。
最後に、ほかにFVCに対して求めることはありますか?

大前
うちの職員の教育と、サポートをよろしくお願いします。できれば、また勉強会でも。

松本
ありがとうございました。今後とも、ぜひよろしくお願いします。

今回は、2年連続のファンド組成という取り組みを成功させた神戸信用金庫さんにお話をうかがい、既に一号ファンドである「地域再興ファンド」の成果が上がっているということをお聞かせいただきました。
「地域再興ファンド」は公募型、また「ステップアップファンド」は増額型といずれも新しいスキームを利用しており、そのアイデア力には脱帽の一言。今後の地方創生ファンドのモデルケースとなっていくのではないでしょうか。
両ファンドによる地域の盛り上がり。我々FVCも、その一助となれるよう努力を惜しみません!

Back Number